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2025.10.20

若手職員の「自己効力感」が未来を拓く
――長野県中川村が育む、持続可能なDXの土壌

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若手職員の「自己効力感」が未来を拓く
――長野県中川村が育む、持続可能なDXの土壌

「20年後、職員数が半減しても住民サービスを止めない」。長野県中川村のDX推進は、未来への強い危機感から始まりました。一度は失敗した人材育成の道のりを、職員一人ひとりの小さな成功体験を積み重ねるアプローチへと転換し、組織全体の意識を変革しつつあります。DX担当者が抱える「孤独」をまるごとデジタルとの連携で乗り越えた同村の取り組みを、担当の窪田さんにお聞きしました。

        長野県中川村役場 窪田さん

長野県中川村 地域政策課DX推進係
窪田 和也(くぼた かずや)さん

令和3年度のDX推進本格始動から中心的な役割を担う。一度は形骸化した若手ワーキンググループの失敗を糧に、「自己効力感」を育む人材育成へと方針を転換。ITパスポート取得支援などを通じて、職員の意識改革と組織のDX土壌づくりに情熱を注いでいる。


Q1. まず、中川村が本格的なDXに乗り出した背景と、ぶつかった壁について教えてください。

はい、中川村の取り組みの原点は、2045年に生産年齢人口と老年人口が逆転するという、村の人口推計に対する非常に強い危機感です。このままでは、役場の働き手も今の半分になってしまい、現在の行政サービスを維持できなくなる。その未来に備えるためには、今からデジタル技術を活用して働き方を変えていくしかない、と。

特に、20年後に組織の中核を担う今の若手職員たちに、変革を主導できるマインドを身につけてもらうことが急務だと考え、令和3年(2021年)7月にDX推進を本格的にスタートさせました。



Q2. 最初から順調ではなかったそうですね。若手中心のワークショップでの「失敗」について教えてください。

お恥ずかしながら、最初からうまくいったわけではありません。当初は、若手をリーダーにしたワーキンググループを複数立ち上げたのですが、テーマを広げすぎてしまい、私たち事務局の支援が追いつきませんでした。結果として、職員の自発性を十分に引き出すことができず形骸化。

この失敗から、いきなり大きな改革を求める前に、まずは職員一人ひとりが「自分にもできる」という自信、いわゆる「自己効力感」を育む土台作りが必要だと痛感しました。



Q3. 失敗から学んだ「小さな成功体験」を積むために、なぜITパスポート取得支援を選んだのですか?

土台作りの手段として選んだのが、国家試験である「ITパスポート」の取得支援です。理由は、ITの基礎知識が身につくことはもちろんですが、それ以上に「合格」という明確なゴールがあるため、職員が成功体験を積みやすいと考えたからです。

「試験に受かった」という小さな成功が自信になり、DXを「自分ごと」として捉えるきっかけになる。そう信じて、受験料やテキスト代は村が全額負担する研修制度として始めました。

ITパスポート模擬試験の様子



Q4. 勉強会での部署を越えた交流から、どのような効果をもたらしましたか?

毎週木曜日の夕方1時間、有志で集まって勉強会を開いています。最初は試験対策が目的でしたが、次第に部署の垣根を越えた職員が集まるコミュニケーションの場へと変わっていきました。

「最近、仕事どう?」「こんなことで困っていて…」といった雑談の中から、業務改善のヒントが生まれたり、日々の悩みを共有することで、お互いの心理的な負担が軽くなったりする効果がありました。この「雑談ベースの対話」こそが、組織の風通しを良くする上で、非常に重要だと感じています。

ITパスポート学習風景



Q5. DX推進で感じた孤独は、外部コミュニティと繋がることでどう変わりましたか?

正直なところ、担当者として孤独を感じることは少なくありません。そんな時、大きな支えになったのが、「まるごとデジタル」のような外部コミュニティの存在です。

他の自治体の担当者と交流する中で、「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」と安心したり、他自治体の取り組みから新たなヒントを得たりすることができます。自分のやっていることの価値を客観的に再認識でき、次の一歩を踏み出す勇気をもらっています。



Q6. 職員の意識が変わった今、中川村が目指す「理想の未来」とはどのようなものでしょうか?

初年度のITパスポート試験では9人中6人が合格しましたが、それ以上に嬉しかったのは、受験後のアンケートで89%もの職員が「DXへの意識が高まった」と回答してくれたことです。この意識の変化を、今後は具体的な業務改善という「行動」に繋げていきたいです。3年後を目処に、育成した人材を核としたワーキンググループを立ち上げる  ことができたらと理想を描いています。

最終的な理想は、DX推進課・係のような特定の部署が旗を振るのではなく、全ての部署にDXの知識とマインドを持った職員がいて、現場主導で改革が進んでいく組織です。そのための「種まき」として、これからも地道な人材育成を続けていきたいと思っています。


担当者としての孤独感のお話も、多くの方の共感を呼ぶと思います。これからの『種まき』の成果、とても楽しみにしています!

窪田さん、今日はお話ありがとうございました!



「一般社団法人まるごとデジタル」では、「人が主体の豊かなデジタル社会の実現」を目指して、全国の自治体とともにデジタルデバイドの解消・DX推進に取り組んでいます。2023年8月に高知県日高村、KDDI株式会社、株式会社チェンジの三者で設立し、今年で活動がまる二年経ちます。今後引き続き、取り組みにご賛同いただける自治体や企業を広く募集し、様々な地域に仲間を増やしていくことで、デジタルインクルージョンの推進と住民のエンパワーメントの促進に取り組んでいきます。



◆連絡先

一般社団法人まるごとデジタル

まるごとデジタル事務局 担当:趙、福本

メール:info@maru-digi.org

※ お問合せは一般社団法人まるごとデジタルのホームページ

https://maru-digi.org/)よりお気軽にお問い合わせください。