Info
お知らせ

2025.11.10

「全窓口がスマホの相談窓口です」
――大崎町が描く、住民と職員に寄り添うDXの形

Tags
会員インタビュー

大崎町インタビュー記事サムネイル

「全窓口がスマホの相談窓口です」――大崎町が描く、住民と職員に寄り添うDXの形

鹿児島県大崎町は、高齢者のデジタルデバイドという大きな課題に対し、「新規採用職員が先生役のスマホ相談会」や、全国でも珍しい「全窓口のスマホ相談窓口化」といった、住民に寄り添うユニークな取り組みを進めています。しかし、その裏では職員のDXに対する意識改革という、もう一つの大きな壁にも直面していました。数々の挑戦をリードしてきた同町のDX担当、室薗さんに、“自分たちのペースで進めるDX”の軌跡と成功の秘訣を伺いました。

鹿児島県大崎町役場 室薗和隆さん

鹿児島県大崎町 総務課デジタル推進係

室薗 和隆(むろぞの かずたか)さん

18歳で大崎町役場に入庁。農政や、庁内のPC一人一台体制を整備した電算係などを経験。DX担当となり、何から手をつけて良いか分からない状態から、YouTubeなどで独学し「地域の課題をデジタルで解決する」という使命を見出しました。鹿児島県のデジタル人材派遣制度をきっかけに、高知県日高村の先進事例と出会い、高齢者のデジタルデバイド対策に本格的に着手。「スマホ困りごと相談会」や「全窓口のスマホ相談窓口化」など、住民と職員双方に寄り添った施策を次々と展開しています。現在は、職員の意識改革を次の課題と捉え、持続可能なDX体制の構築に尽力しています。


Q1. まず、大崎町が本格的なDXに乗り出した背景と、最初にぶつかった壁について教えてください。

はい。全国的なDXの流れを受け、前任者がDX推進計画を策定したのがスタートでした。私が4年前に担当になった時、正直「DXって何が目的なんだろう?」という状態でした。そこで自分なりにインターネットやYouTubeで調べ、「地域の課題をデジタルで解決していくことなんだ」と理解し、そこから手探りで始めました。

最初に取り組むべきだと感じたのは、高齢者の方々がデジタルツールを使えない、いわゆる「デジタルデバイド」の問題でした。当初は国の事業を活用し、携帯ショップさんにスマホ教室をお願いするだけでした。しかし、これだけでは根本的な解決にはならないという強い課題感を抱えていたのが、すべての始まりです。


Q2. 大きな転機となった、鹿児島県の「デジタル人材派遣制度」では、どのような発見があったのでしょうか?

まさにターニングポイントでした。この制度を通じて、専門家の陳内さんに相談する機会を得ました。その時にご紹介いただいた高知県日高村の「スマホ普及率100%を目指す」という取り組みには、本当に衝撃を受けました。

私たちの地域でも、「高齢者にはどうせ無理だ」と、住民の方ではなく職員や周りの人たちが決めつけて諦めている部分が多くありました。しかし、日高村では実際に普及率が60%台から90%近くまで向上していました。この結果を見て、「諦めているのは私たち職員の側だったんだ。実際に地域に出てみれば、挑戦したいと思ってくれる人はいるんだ」と気づかされました。この発見が、私たちの背中を強く押してくれました。


Q3. デジタルデバイド対策として、日高村の事例を参考に、どのような取り組みをされたのですか?

まず、日高村のアンケート用紙を参考に、町内のスマホ所有率を調査しました。すると、やはり65歳を境に所有率が大きく下がる現実が見えてきました。所有しない理由で最も多かったのが「必要ない」、次が「わからない」でした。

そこで、「それなら、わからないことを何でも聞ける場を作ろう」と考え、新規採用職員を講師役にした「スマホ困りごと相談会」を町内6地域で実施しました。生まれた時からスマホに触れている若い職員たちは、高齢者の皆さんのどんな質問にも的確に答えてくれましたし、何より世代を超えた交流の場になったのが大きな収穫でした。「今度役場に行ったらあなたを訪ねていい?」といった会話が生まれるなど、とても良い雰囲気でした。

この成功体験をもとに、さらに一歩進めて、役場の全窓口に「スマホ相談窓口」のプレートを設置しました。手続きの合間に、ちょっとした疑問でも気軽に聞ける体制です。住民の方のハードルを下げると同時に、職員にも「自分たちが案内するものは、自分たちも使えなくてはならない」という意識を持ってもらう狙いがありました。

大崎町 相談窓口プレート写真(スマホ相談窓口)

スマホ困りごと相談会の様子(大崎町)


Q4. DX推進の肝である「人材育成」、特に職員の皆さんへのアプローチではご苦労されているそうですね。

はい、ここが一番の課題です。住民の方にLINE公式アカウントの登録を案内しようにも、実は職員自身が登録方法をよく知らないという実態がアンケートで判明しました。そこで職員向けのLINE講習会を開いたところ、「住民に聞かれた時に説明できないとまずい」という危機感からか、80名もの申し込みがありました。

しかし、その一方で、先日募集した業務改善研修の参加者はゼロでした。職員数が減り、皆が忙しいのは分かりますが、「研修を受けることで今の業務が楽になる」という未来まで、なかなか意識が向かないのが現状です。「DXは総務の仕事」というように、自分事として捉えられていない職員が多いという壁に直面しています。


Q5. 職員の意識改革という壁に対し、今後はどのようにアプローチしていこうとお考えですか?

いきなり「業務改善研修やります!」とワークショップ形式のものを案内しても、ハードルが高いのだと反省しました。まずは「業務改善とは何か」といった講話から始めるなど、参加への心理的ハードルを下げていく工夫が必要だと感じています。

その第一歩として、近々「生成AI研修」を予定しています。私自身、生成AIは「これがない業務は考えられない」と感じるほど画期的なツールだと思っていますが、それでも職員の申し込みは15名ほどです。まずはこの研修で参加者に「受けてよかった!」と感じてもらい、その口コミで「自分も参加してみたい」という輪を広げていきたいと考えています。地道ですが、そうした成功体験を積み重ねていくことが重要だと思っています。

スタディーキャンプ集合写真(大崎町職員・まるデジ関係者)


Q6. 最後に、DX推進に悩む全国の自治体職員へ向けて、メッセージをお願いします。

私たちも、決してDXが進んでいる自治体ではありません。むしろ「進んでいないからこそ」まるデジのような外部組織に加入し、学んでいる最中です。

こうした場に参加する一番のメリットは、他の自治体の成功事例はもちろん、「失敗談」や「改善点」を率直に聞けることです。自分たちがゼロから失敗を繰り返すのではなく、先人の知見を共有してもらうことで、取り組むスピードは格段に上がります。自分たちの事例が、少しでも他の誰かの役に立てば、それも嬉しいです。

予算がないから、地域柄難しいからと諦める前に、まずは他の自治体の話を聞いてみてください。「自分たちの自治体に合ったやり方」が、きっと見つかるはずです。


「諦めているのは職員の側だった」という言葉、すごく響きました。失敗しながら、できることを少しずつ進めている姿に感動しました。その一歩ずつの積み重ねが、大きな変化に繋がるのだと感じます。室薗さん、お話ありがとうございました!



「一般社団法人まるごとデジタル」では、「人が主体の豊かなデジタル社会の実現」を目指して、全国の自治体とともにデジタルデバイドの解消・DX推進に取り組んでいます。2023年8月に高知県日高村、KDDI株式会社、株式会社チェンジの三者で設立し、今年で活動がまる二年を迎えます。今後も、取り組みにご賛同いただける自治体や企業を広く募集し、さまざまな地域に仲間を増やしていくことで、デジタルインクルージョンの推進と住民のエンパワーメントの促進に取り組んでいきます。



◆連絡先

一般社団法人まるごとデジタル

まるごとデジタル事務局 担当:趙、福本

メール:info@maru-digi.org

※ お問合せは一般社団法人まるごとデジタルのホームページ(https://maru-digi.org/)よりお気軽にお問い合わせください。