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2026.01.08

「高齢者はデジタルを使わない」は思い込みだった
――那賀町が挑む、過疎地だからこそ必要な“対話型”DX

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「高齢者はデジタルを使わない」は思い込みだった

――那賀町が挑む、過疎地だからこそ必要な“対話型”DX

徳島県那賀町は、急速な人口減少と高齢化が進む中、令和5年度に「みらいデジタル課」を新設し、地域ぐるみのDXに舵を切りました。しかし、当初は「高齢者にデジタルは無理だろう」という懐疑的な空気が庁内を支配していたといいます。 そこからどのようにして、70代の利用者が大半を占める中でデジタルサービスを生み出し、住民満足度を高めるに至ったのか。長年情シス畑を歩み、現在は同町のDX推進を牽引するみらいデジタル課の大西 塁さんに、固定観念を打破したきっかけと、住民との対話から見えてきた新しい行政のあり方について伺いました。

那賀町役場 みらいデジタル課

大西 塁(おおにし るい)さん

スタディキャンプ集合写真(本人は3列目右端)

2025年8月7日「まるごとデジタル スタディキャンプin豊岡 ~出会って、学んで、動き出す~」集合写真(本人は3列目右端)

情シス部門に10年以上従事し、電算業務と企画業務を兼務しながら地方創生や自治体クラウドの推進などに携わる。国の指針「自治体DX推進計画」を機に、令和3年から庁内の業務効率化(業務見える化や書かない窓口等)を推進。令和5年の「みらいデジタル課」発足後は、地域情報プラットフォームの構築(住民マイページやLINE公式アカウントの開設等)やスマホ教室の開催など、住民向けの「地域デジタル化」に奔走している。


Q1. まず、那賀町がDXに注力し始めたきっかけと、当時の課題感について教えてください。

原点は令和2年の総務省「自治体DX推進計画」でした。当時はまだ取り組んでいる自治体も少なかったのですが、私自身で色々と調べていくうちに、那賀町の深刻な課題である「職員数の減少」と「過疎化」と一致しました。 「人が減っていく中で、今の行政サービスをどう維持するか」。その危機感から、まずはDX推進計画の策定と庁内体制を整備し、令和4年に「遠隔相談」や「書かない窓口」の導入、文書管理の電子化など、役場内部の業務効率化からスタートしました。 その後、令和5年度に組織体制が変わり「みらいデジタル課」が発足したことで、役場内だけでなく、住民に向けた「地域DX」へ本格的に取り組むことになりました。


Q2. まるごとデジタル(以下、まるデジ)に参加されたのは、どのような経緯だったのでしょうか?

役場内のDXは職員主導である程度進められても、住民を巻き込んだ「地域DX」に関してはノウハウがなく、手探り状態でした。 そんな時、まるデジの安岡周総さんの講義を受ける機会がありました。身近にこれほどの熱量と行動力を持って活動している人がいることに感動し、「ここでなら地域DXの本質を学べる」と直感して参加を決めました。 実際に全国の自治体職員の方々と関わってみると、皆さんの誠実さに触れ、私自身の意識も大きく変わりました。「行政が全てをやる(公助)」のではなく、住民のエンパワーメントを高め、「自助・共助」の仕組みを作ることが必要だと痛感しました。


Q3. 具体的にどのような住民向けサービスを展開し、壁を乗り越えたのでしょうか?

令和6年度に、ウェブサイト(住民マイページ)とLINEを連携させた「地域情報プラットフォーム」を開設しました。しかし当初、私を含め庁内には「高齢化が進む那賀町で、住民がデジタルサービスなんて使ってくれると思えない」という懐疑的な見方が強かったです。 その思い込みを壊してくれたのが、安岡さんの「それは職員の勝手な思い込みだ」という言葉でした。 ハッとさせられましたね。そこで、導入ハードルの高いネイティブアプリではなく、ウェブ完結型のマイページサービスを採用し、同時にスマホ教室などのプロモーションもセットで行いました。 結果は驚くべきものでした。アンケート回答者の大半が高齢者の方々でしたが、スマホ教室の満足度は10点満点中8.05点、マイページも7.61点と、高い評価をいただいたのです。

那賀町デジ化大作戦 チラシ(表)

「那賀町デジ化大作戦」プロモーション用A4チラシ(表)

那賀町デジ化大作戦 チラシ(裏)

「那賀町デジ化大作戦」プロモーション用A4チラシ(裏)


Q4. デジタル化を進めたことで、定性的な変化や気づきはありましたか?

一番の変化は、住民との距離が縮まったことです。スマホ教室などで直接関わる中で、「役場はこんなことも教えてくれるの?」「分からなかったので助かった」と喜んでいただいたり、ご要望などもダイレクトに聴けるようになりました。 これにより、職員自身が「住民が本当は何に困っているのか」を肌感覚で理解できるようになりました。単にツールを入れるだけでなく、対話を通じて住民の困りごとに寄り添う姿勢こそが、DXの真の成果だと感じています。

那賀町 あなたもデジ化講座の様子

那賀町スマホ・デジタル使い方講座「あなたもデジ化講座」の様子


Q5. 資金や人材不足といった課題に対して、どのよう向き合っていますか?

おっしゃるとおり、資金も人も余裕がないのが現実です。職員も日々の業務に追われており、新しいことに目を向ける余力がありません。そこで無理に強制しても本質的な解決には向かわないと考えています。 個人的には、今の当たり前を疑い、やめられることも考える、仕事をスリム化するいわゆるECRSが先ず必要だと思っています。 その中で、まるデジのような外部コミュニティの存在は非常に大きいです。週に1回、他自治体の前向きな職員の声を聞くことが、私自身のモチベーション維持に役立っています。孤独になりがちなDX担当者にとって、こうした「心のガソリンスタンド」のような場所があることは救いですね。


Q6. 最後に、今後の展望と全国の自治体職員へメッセージをお願いします。

今後は、鹿児島の皆様に倣って、徳島県支部のような形で域内の横のつながりを強化し、お互いのモチベーション維持やノウハウの共有、相互補完ができる環境を創っていきたいです。その上で、まるデジが、引き続き前向きな人材の受け皿になってくれればと期待しています。 全国の職員の皆さんへ伝えたいのは、「アナログとデジタルのバランス」の大切さです。デジタル一辺倒ではなく、今回私たちが経験したような住民とのリアルな接点も大事にしながら、進めていくことが重要だと思います。 今は全国とつながりやすい環境があります。一人で抱え込まず、周りを巻き込みながら、みんなで一緒に壁を乗り越えていきましょう。


「高齢者はデジタルを使わない」という懐疑的な考えを、「諦めているのは職員の側だった」という言葉で打ち破った大西さんの姿勢に、深く感銘を受けました。資金や人材がない中で、周囲と連携し、失敗を恐れずにできることを一つずつ積み重ねていく姿は、全国の自治体職員にとって大きな勇気になると思います。その地道な一歩ずつの積み重ねが、やがて大きな変化となって地域社会を動かしていくと感じました。

大西さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!



「一般社団法人まるごとデジタル」では、「人が主体の豊かなデジタル社会の実現」を目指して、全国の自治体とともにデジタルデバイドの解消・DX推進に取り組んでいます。2023年8月に高知県日高村、KDDI株式会社、株式会社チェンジの三者で設立し、今年で活動がまる二年経ちます。今後引き続き、取り組みにご賛同いただける自治体や企業を広く募集し、様々な地域に仲間を増やしていくことで、デジタルインクルージョンの推進と住民のエンパワーメントの促進に取り組んでいきます。



◆連絡先

一般社団法人まるごとデジタル

まるごとデジタル事務局 担当:趙、福本

メール:info@maru-digi.org

※ お問合せは一般社団法人まるごとデジタルのホームページ(https://maru-digi.org/)よりお気軽にお問い合わせください。