
“スマホ普及率100%”のその先へ
――日高村が挑む、地味だけど愛のある「庁内DX」のリアル
高知県日高村といえば、「村まるごとデジタル化事業」によるスマホ普及率100%への挑戦で全国的に知られる自治体です。しかし、その華々しい成果の裏側では、アナログな業務フローや庁内の意識改革という、どこの自治体も抱える「泥臭い課題」との戦いがありました。前任者からバトンを受け継ぎ、「大革命は起こせないけれど、小さなことを積み上げたい」と語る日高村企画課の寺尾さんに、庁内DXの現在地と、仲間と共に進む意義について伺いました。

日高村役場 企画課
寺尾 隆太(てらお りゅうた)さん
「スマホ普及率100%」を目指した村まるごとデジタル化事業の基盤を受け継ぎ、現在は庁内業務のデジタル化(庁内DX)に注力しています。各課から選出されたDX推進係と共に、NASサーバーのルール化、BPRツールの導入、窓口業務の改善などに奔走。派手な改革ではなく、職員一人ひとりが使いやすい「小さな改善」の積み重ねを信念としています。
Q1. 日高村といえば「スマホ普及率100%」ですが、現在のDXのフェーズはどうなっているのでしょうか?
実は、庁内DXについては「まだこれから」というのが正直なところです。「赤いメガネの方(安岡さん)」が主導したスマホ普及事業は、住民向けのサービスとして一定の成果を上げました。しかし、それを支える役場内部に目を向けると、明確なルールがなくデータが散在していたり、アナログな業務が残っていたりと、課題が山積みでした。そこで現在は、住民向けのスマホ事業とは別の軸で、「庁内DX」を推進しています。各課から1名ずつ「DX推進係」を選出し、外部のアドバイザー(AKKODiSコンサルティング株式会社)の力を借りながら、現場の困りごとを一つずつ潰していく体制を作りました。
Q2. 具体的にはどのような取り組みを進めているのですか?
地味ですが、まず着手したのが「NAS(共有サーバー)の整理」です。これまで各課が好き勝手にフォルダを作っていたため、どこに何があるか分からない「聖域」のような状態でした。そこに初めてメスを入れ、全庁的なルールを策定しました。また、業務フローの可視化にも取り組んでいます。これまではExcelで作ったフロー図を使っていたのですが、担当者が代わると更新されず、形骸化してしまうのが悩みでした。そこで「ガバメイツピッツ(GovMates Pits)」というツールを導入し、業務の棚卸しと可視化を進めています。さらに、村長の公約でもある「書かない窓口」の実現に向けて、「パシットスキャン(Pacit Scan)」というシステムを導入し、免許証などから情報を転記して申請書作成の手間を減らす取り組みも始めました。
Q3. 新しいツールの導入に、庁内からの反発はなかったのでしょうか?
もちろんありました。「今は忙しいから無理」「Excelの方が早いじゃん」といった声は常にあります。特にサーバー整理などは、「9月からやってください」と伝えていても、年末になって「データ移行ができない」と言われたり……。そこは心を鬼にして「前から言ってましたよね?」と粘り強く伝えるしかありません。ただ、ガバメイツピッツに関しては、業務時間を入力することで「何が忙しいのか」が見える化されます。「忙しいと言うなら、システムに入力して証明しよう」と説得しています。まだ成果が見えるのはこれからですが、組織として業務量や人員配置を考えるための土台作りだと考えています。
Q4. 住民サービスの方では、LINE活用で大学生と連携されているそうですね。
はい。現在の日高村公式LINEは、あらゆる情報を一律に配信しているため、ブロック率が高いのが悩みです。そこで、東京女子大学の大学生たちと連携し、「本当に欲しい情報を、欲しい人に届ける」ためのセグメント配信の検討を進めています。学生ならではの視点で「ここが使いにくい」「もっとこうしたら」という提案をもらいながら、将来的には「書かない窓口」を通り越して、役場に来なくても手続きができる「行かない窓口」を実現できればというのが私の夢です。
Q5. まるデジに参加して、寺尾さんご自身にはどのような変化がありましたか?
一番大きかったのは、「メンタル面での支え」が得られたことです。正直、村という小さな組織の中で何かを変えようとすると、どうしてもハレーションが起きて潰されそうになることがあります。そんな時、まるデジには南陽市の佐野さんのようなトップランナーがいて、同じような悩みと戦っている仲間がいます。実は、サーバー整理のルール作りも、佐野さんに「どうやってるんですか?」と相談して、教えてもらったノウハウをそのまま活かしたんです。「あんな風になりたい」というモデルが近くにいること、そして困った時に相談できる仲間がいることが、私が折れずに進むための原動力になっています。
Q6. 最後に、全国の自治体職員へメッセージをお願いします。
私は前任の安岡のような「大革命」は起こせません。でも、「小さな改善」を積み重ねることならできます。最初から大きなことをやろうとすると反発も大きいですが、現場の小さな「便利」を一つずつ増やしていくことで、数年後に「変わったね」と言ってもらえればいいと思っています。まるデジは、そんな悩みを持つ職員にとって、視野を広げ、心の支えとなる仲間に出会える場所です。一人で抱え込まず、ぜひここに来て、一緒に壁を乗り越えていきましょう。

最後に
「大革命は起こせないけれど、小さなことを積み重ねていく」という寺尾さんの言葉が、胸に深く響きました。かつての「スマホ普及率100%」という輝かしい成果のバトンを受け取りながらも、気負いすぎず、目の前の職員や住民の「小さな困りごと」に誠実に向き合い続ける姿勢。それこそが、持続可能なDXを支える土台なのだと確信しました。その一歩ずつの積み重ねが、数年後の日高村の景色を確実に変えていくはずです。
寺尾さん、貴重なお話をありがとうございました!
「一般社団法人まるごとデジタル」では、「人が主体の豊かなデジタル社会の実現」を目指して、全国の自治体とともにデジタルデバイドの解消・DX推進に取り組んでいます。2023年8月に高知県日高村、KDDI株式会社、株式会社チェンジの三者で設立し、今年で活動がまる二年経ちます。今後引き続き、取り組みにご賛同いただける自治体や企業を広く募集し、様々な地域に仲間を増やしていくことで、デジタルインクルージョンの推進と住民のエンパワーメントの促進に取り組んでいきます。
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まるごとデジタル事務局 担当:趙、福本
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